Masukカリナの格闘術の奇妙な一撃で怯んだ悪魔侯爵イペス・ヘッジナだったが、すぐさま体勢を立て直し、身体からどす黒い炎を撒き散らしながらカリナへと突進して来た。
「おのれ、小娘がっ!」
振るった大鎌が空を斬り裂く轟音を上げる。カリナは大振りな悪魔の攻撃に意識を集中させ、
カリナは召喚術が実装されるまでは基本的に剣術と格闘術を中心に熟練度を上げていた。そこへ剣技の威力を上げるために魔法を習得した。魔法剣の習得は魔力の底上げとなった。それの副次効果で、魔力を帯びた特殊な格闘術の技能も全般的に威力を向上させることに成功したのである。
「がはっ、何だ……? この威力は?!」
「だから言っただろう。小突いただけだとな」
「小癪なっ!」
イペスが力任せに大鎌を横薙ぎにする。カリナは瞬歩を使用して紙一重で躱す。そのまま一気に巨体の股の下を潜り抜けて後ろを取ると、背後から風の魔力を纏った左脚での回し蹴りを見舞った。格闘術、
「がああっ!」
竜巻の如き強烈な蹴りに悪魔は仰け反るが、すぐさま持ち直し、黒炎を撒き散らしながら突進して来る。
イペスの攻撃は大振りで読み易いということを既にカリナは見抜いている。しかし、それでもその巨体から繰り出される攻撃は異常な破壊力を秘めており、一撃でもまともに喰らえばかなりのダメージを負うだろう。最悪骨の数本は持っていかれる。一撃も貰うわけにはいかない。スレスレで回避する度に神経が擦り減っていく。
「があああっ!」
上段から大鎌を振り被った渾身の一撃。カリナは敢えて前方に踏み込み、懐に入るようにして躱す。そのまま空振りをして地面を砕いた大鎌の柄を足場にし、硬直状態の悪魔の身体を駆け上がると、眼前で左拳を振り被る。
「格闘術、
ドゴオオオオオオッ!!!
炎の魔力を纏った高熱の拳が炸裂すると同時に頭全体を巻き込んで爆発した。衝撃で痺れる拳の代わりに、悪魔はたたらを踏んで後方へと後退る。
「ぐはあああああっ!」
それでもまだこの悪魔侯爵は倒れない。やはり高位の悪魔だけあって相当に打たれ強く頑強である。
「くくく、少しはやるようだが、効かぬ! この我の肉体にはな!」
更に黒炎を体から噴き出して、悪魔が吠える。覚悟していたことだが、硬い。さすがは侯爵レベルの悪魔である。カリナの渾身の一撃もそこまでの致命的なダメージにはなっていない。
「ちょこまかと小賢しいが、疲れてその動きができなくなったときが貴様の最期よ」
「ふう……、やはり高位の悪魔とでも言うべきか……。そこまで効いていないみたいだな。ならば、此方もギアを上げさせてもらおう」
カリナが目を閉じて集中する。再び開眼すると同時に美しかった碧眼が夕焼けの如く真紅に染まる。
「な、何だあの力は? あの嬢ちゃんはまだ本気じゃなかったっていうのか……?」
「なんつー闘気に魔力の渦だ……。あんなの近づくことすらできやしねぇぞ」
アベルにロックは、カリナが更に一段階力を解放したことを感じ取り驚愕した。 セレナとエリアは、ヤコフの両親の呼吸が落ち着いて来たので、二人を階段の上に寝かせたままカリナと悪魔の戦いに目を奪われていた。
「これまでとは雰囲気が変わりましたね……」
「ええ、更に底知れない力を感じるわ……」
「頑張って、カリナお姉ちゃん」
シルバーウイングの面々とヤコフは階段の影から固唾を呑んで、更に力を解放したカリナの姿を目で追っていた。
「ぬうううっ、おのれ! 人間風情があああっ!!!」
これまでより一段と苛烈な黒炎を噴き出しながら、悪魔が叫ぶ。その黒炎が竜巻となってカリナに向かって吹き荒れる。防御か回避しなければ、その高熱により致命的なダメージを負う危険がある。
「格闘術、
両拳を握って体の前方で交差させると、カリナの両拳に局所的な暴風が渦巻いた。襲い来る黒炎をその風で弾き飛ばしながら、地面を蹴って前進する。そしてイペスが薙ぎ払おうと右へ振り被った大鎌の内側へと入り込むと、その持ち手を暴風を纏った左手でガィンと受け止めた。そのまま跳躍し、悪魔の眼前へと飛び出す。カリナ自らが纏う吹き荒れる嵐に紫のミニスカートがふわりと舞った。そして残った右手の拳を悪魔の顔面へと叩き込む。腕の周りを旋回していた暴風が一陣の風となった。拳のインパクトの衝撃に加えて更に渦巻く風が強烈な二撃目となって撃ち込まれたのだ。
「ごはぁっ!」
暴風を纏った拳を撃ち込まれた悪魔は、此度はさすがに堪え切れずに後方へと吹き飛び、湖へと突っ込んだ。激しい水飛沫が舞う。しかし、それほどの強烈な一撃をお見舞いされたにも関わらず、悪魔はすぐさま翼を羽搏かせて空中へ跳び上がり、此方へと突進してくる。
やはり生身の打撃ではそこまでの効果は見込めないらしい。ダメージはそれなりにあるようだが、致命傷には至っていない。カリナは徐々に悪魔に叩きつける自分の拳が痺れて来るのを感じていた。悪魔の頑強な硬皮に対して生身の拳ではやはり限界があるのだと実感せざるを得ない。
それでもかなりの収穫はあった。この小さな体では全ての攻撃が相手の視界の下から繰り出される。更に懐にも深く潜り込み易い。相手にとっては相当にやりにくく感じるはずである。そして侯爵相手にまだ一度もまともな攻撃を喰らっていない。このことはカリナにとって大きな自信になった。だが、このままでは無尽蔵の膂力を持つ相手に消耗戦である。下手をすれば自分の体力が先に底を尽く可能性もある。
「収穫はあった。そろそろ勝負を急がせてもらうぞ。魔眼解放、
真紅に染まっていた両目の、左目のみが更に変化する。魔眼解放。過去のクエストの報酬と自分の戦闘スタイルに合わせて取得した上位のスキルである。
白目が黒く染まり、真紅だった瞳孔が黄金の光を放つ。その視界に収められた者は自由を奪われ、麻痺の状態異常を付与されるというカリナの奥の手である。敢えて敵を遠くまで吹き飛ばしたのはこれが狙いだった。
「ぐおおおおおおっ!!? な、何だこれは……!?」
地底湖の岸辺に辿り着こうとしたイペスは体を縛り付ける魔眼の威力に飲み込まれ、そのままドサリと落下した。バチバチという束縛の音が響く。
「さて、話を聞かせてもらうぞ。王とは誰のことだ? お前達悪魔は何が目的で動いている?」
「う、うぐおおおおおおおっ!!! 調子に乗るなあああっ!!!」
麻痺束縛の魔眼を受けてもなお、その場でレジストしようと全身に力を入れる。さすがは上位悪魔といったところであろう。その束縛が指から手、腕へと徐々に解除されていく。
「腐っても上位悪魔ということか……。このまま魔眼での束縛で拮抗し合っても無駄なようだ」
「カカカカッ、貴様が如何に小賢しい手を使おうが、我が肉体には致命傷にはならん。この束縛が切り札なら、この効果が途切れたときが貴様の最期よ!」
「ならば仕方ない、更に奥の手を使わせてもらう。致命傷は覚悟するんだな」
これまでの素手での格闘でもある程度削ることはできたが、やはり致命的な一撃を与えるには至っていない。それでもカリナにはその頑強な硬皮を破壊する手段が残っている。
「開け、黄道十二宮の扉よ! 獅子宮から顕現せよ、黄金の獅子よ!」
カリナが頭上に手を翳すと、巨大な黄金の魔法陣が展開され、ダンジョンの暗い空間に黄金の光が降り注ぐ。そしてカリナの目の前には黄金の鎧を身に纏ったライオンの姿があった。
「召喚に応じ参上致しました。我が主よ」
「ああ、久し振りだな、カイザー」
「そうですな……。100年の年月は短いものではありませんでした」
物陰から見守っていたシルバーウイングの面々は更に高位の存在を召喚したカリナに目を奪われていた。その前には魔眼を発動させ、悪魔の動きを一時的に封じるなどという荒業をカリナは披露したのである。最早単純な驚きだけではなかった。一体次は何を見せてくれるのだろうかと、彼らの反応は最初の不安から、今や期待へと変化していたのである。
「何あれ……? 黄道十二宮の扉?」
「あの嬢ちゃんの力はどこまでなんだ……?」
「とんでもない魔力を感じます。先程のワルキューレのときもそうでしたけど……。カリナちゃんの召喚士としての力は底が見えない」
「黄金の獅子かよ……、すげえ力を感じるぜ!」
エリアが、アベルにセレナにロックが次々に感嘆の声を上げる。祈るように見ていたヤコフもカリナが見せる戦いに心が昂るのを感じていた。
「何だ、この異常な力は……? 小娘、貴様はどれほどの力を秘めているのだ?!」
カリナはニヤリと不敵に笑うと黄金の獅子に命じる。
「私の身体を纏え、カイザー!」
「承知したぞ、我が主よ!」
カイザーが輝くと同時に黄金の鎧へと姿を変える。それが光の渦となってカリナの身体を覆っていく。そしてその光が霧散したとき、そこには黄金の獅子の形を模した鎧を身に纏っているカリナがいた。
全身を覆う黄金の輝きを放つ鎧。ショルダーアーマーにブレストプレート。スカートの様に展開されたウエスト全体を守るパーツに、両腕を覆うガントレット。膝上までをガードするレッグガード。そして獅子の
「な、何だ……? その姿は一体? 召喚体を身に纏うだと? そんな存在がいるというのか?」
「知らなかったのか? これが召喚獣と真に心を通い合わせた者が身に纏うことができる鎧、
イペスの質問に答えたカリナは左拳を握り、召喚獣の精霊力を一点に集中させる。
「死ぬなよ。情報が聞き出せなくなるからな。さあ受けろ、黄金の獅子の牙を!」
「ぐおおおおおおっ! こ、これはー?!」
繰り出された拳から幾重にも交差する光の筋が放たれる。その一つ一つを確実に捉えて回避することなど不可能に思える程の超高速の拳がイペスを飲み込む。
「プラズマ・サンダーボルト!!!」
放たれた光の筋一本一本が、それに触れたイペスの身体を紙切れのようにズタズタに引き裂いて行く。大鎌は弾き飛ばされ、身に纏っていた赤黒い頑強な鎧は粉々に破壊された。光に触れた肉体の部分には無数の裂傷が走り、黒い血液が噴水のように噴き出していく。カリナから放たれた光が消えた時、目の前には大の字になって倒れた悪魔の姿があった。
「がはっ、何だ今のは……? ただ何かが光っただけにしか見えぬとは……! それにあの瞬間感じたのは恐怖だとでもいうのか……」
背中から力なく倒れたイペス・ヘッジナは最早動くことはできなかった。それでも
「勝負あったな。最早動けまい」
「お、おのれ……、人間如きに我が負けるなど……」
自分の敗北が信じられないのであろう。それでも最早自力で動かすことのできない身体が、自身の負けを物語っていた。悪魔侯爵であり、圧倒的な膂力と魔力を持っている自分がたかが人間の少女に敗北したのである。倒れた自分を見下ろす少女が果てしなく巨大な存在に見えていた。
「ク、クカカカカッ! まさか、この我がこんな人間の小娘に敗北するとはな……。いいだろう、その勇気に免じて質問に答えてやろうではないか」
黒い血液を身体から噴き出しながら、悪魔が敗北を認めた。これで漸く質問の答えが得られると思い、カリナは悪魔に問いかける。
「悪魔侯爵イペス・ヘッジナよ、貴様の主、王とは誰のことだ? 貴様ら悪魔は何の目的で動いている?」
「我らは各地で力ある人間共からその力を奪い、あのお方の復活に向けて動いている……。今も我の仲間の悪魔が近くの街を襲撃する手筈になっているはずだ。そして、我が主とは……」
イペスが主のことを言おうとした瞬間、その体が突如として青白い炎に包まれる。カリナはこの悪魔が最後の力で自害したのかと思ったが、イペスはその炎の中で苦しんでいる。どうやら勝手な情報が漏れない様に何かが仕掛けてあったのだろう。
「ぐおおおおおおっ!? 何故だ、勝手に我の身体が燃えていく! クカカカカッ、そうか、口封じということか!」
「何だ? 何が起こった? 貴様の主とは誰だ!」
「■■■■■……! クカカカカッ、喋ることもできぬとは。召喚士カリナよ、気を付けるがいい。我が主は部下である我のことすら信用してはいないらしい。さらばだ、貴様が我らの王に挑む資格があるのか、地獄で見物させてもらおう」
そう言うと、嘲るような笑い声と共に悪魔侯爵であるイペス・ヘッジナは完全に炎に包まれて消えた。残されたのは悪魔の身体の核になっている紫に輝く巨大な魔力結晶と、鋭い二本の角に数本の爪だけであった。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
小鳥のさえずりと共に、カーテンの隙間から柔らかな朝陽が差し込んでくる。カリナは微睡みの中で、包み込まれるような温かさを感じて目を覚ました。「ん……」 目を開けると、すぐ目の前にカグラの穏やかな寝顔があった。昨晩、不安に押しつぶされそうになっていた自分を抱きしめ、一晩中こうして温め続けてくれたのだ。その母性にも似た深い愛情に、カリナの胸が熱くなる。「……ありがとう、カグラ」 カリナはそっと体を起こすと、カグラの肩を優しく揺すった。「おはよう、カグラ。朝だぞ」「んん……。あら、おはようカリナちゃん」 カグラはゆっくりと目を開け、ふわりと微笑んだ。茶色のミディアムヘアが枕に広がり、
エデンを出発してから数時間。 ガルーダの背に揺られ、適度な休憩を挟みながら空の旅を続けていた一行の視界に、夕闇に染まり始めた壮大な石造りの街並みが見えてきた。「見えてきたぞ。あれが騎士国アレキサンドだ」 カリナが指差す先には、湖畔に広がる堅牢な城塞都市があった。エデンのような近代的な魔導都市とは趣が異なり、質実剛健な石造りの建物が整然と並ぶ、まさに「騎士の国」と呼ぶに相応しい景観だ。 そして街の北側、少し小高い丘の上には、街を見下ろすように巨大な王城が鎮座している。夕日を反射して輝くその威容は、大陸の中心国家としての威厳を放っていた。「へぇ、立派なものね。質実剛健、武骨だ
タワー中心部でカリナ達の激闘が終わる頃、外の戦場も激しさを増していた。 谷に湧き出る改造モンスターと、武装した信者達の波。だが、その防衛線は鉄壁だった。エデン王国騎士団副団長ライアンが指揮する部隊と、聖光国から派遣されたルミナス聖騎士団の本隊が連携し、敵の増援を片っ端から粉砕していたのだ。「ここは我らが食い止める! 精鋭部隊は予定通り、左右の研究棟へ!」 ライアンの号令が響く。それに応えるように、白銀の鎧を纏ったカーセルがメンバーと動き出した。「右の研究棟は僕達ルミナスアークナイツが引き受ける。エリアさん、左は頼んだよ!」 カーセルが柔らかくも芯のある声で告げる。その後ろには、愛
決戦が終わり、その夜。 公国の大公ヴィクトールの広大な屋敷にて、盛大な祝宴が催された。公国は内陸に位置するため、海の幸こそないが、山脈で採れた新鮮な山菜、最高級の猪や鹿のロースト、そして芳醇なワインなどの多くの豪勢な料理が大広間のテーブルを埋め尽くしていた。「カンパーイ!!!」 カリナ、カグラ、セリス、サティアに加え、今回の戦いを支えた二つのギルド、『シルバーウイング』と『ルミナスアークナイツ』のメンバー達が、高らかにグラスを掲げた。「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、さすがはカリナちゃんだわ! ちょっとしか見れなかったけど、あの黒いドラゴン、痺れたー!」 シルバーウ