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19  VS悪魔侯爵

Penulis: KAZUDONA
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-23 15:27:56

 カリナの格闘術の一撃で怯んだ悪魔侯爵イペス・ヘッジナだったが、すぐさま体勢を立て直し、身体から黒い炎を撒き散らしながらカリナへと突進して来た。

「おのれ、小娘がっ!」

 振るった大鎌が空を斬る。カリナは大振りな悪魔の攻撃に意識を集中させ、瞬歩で即座に距離を取る。そこに生まれた一瞬の隙の間に懐に飛び込み、右拳での一撃をどてっ腹の中心部に撃ち込んだ。格闘術、烈衝拳れっしょうけん。土属性の魔力を纏った、まるで鋼鉄の様に硬化された拳の一撃。悪魔の赤黒い鎧に僅かに亀裂が走る。

 カリナは召喚術が実装されるまでは基本的に剣術と格闘術を中心に熟練度を上げていた。そこへ剣技の威力を上げるために魔法を習得した。魔法剣の習得は魔力の底上げとなった。それの副次効果で、魔力を帯びた特殊な格闘術の技能も全般的に威力を向上させることに成功したのである。

「がはっ、何だ……? この威力は?!」

「だから言っただろう。小突いただけだとな」

「小癪なっ!」

 力任せの大振りの鎌を瞬歩を使用して紙一重で躱す。そのまま一気に巨体の股の下を潜り抜けて後ろを取ると、背後から風の魔力を纏った左脚での回し蹴りを見舞った。格闘術、烈風脚れっぷうきゃく。悪魔の背にある翼の付け根に繰り出した蹴りが撃ち込まれる。

「がああっ!」

 竜巻の如き強烈な蹴りに悪魔は仰け反るが、すぐさま持ち直し、黒炎を撒き散らしながら突進して来る。

 イペスの攻撃は大振りで読み易いということを既にカリナは見抜いている。しかし、それでもその巨体から繰り出される攻撃は異常な破壊力を秘めており、一撃でもまともに喰らえばかなりのダメージを負うだろう。最悪骨の数本は持っていかれる。一撃も貰うわけにはいかない。スレスレで回避する度に神経が擦り減っていく。

「があああっ!」

 上段から大鎌を振り被った渾身の一撃を敢えて前方に踏み込み、懐に入るようにして躱す。そのまま空振りをした硬直状態の悪魔の身体を駆け上がり、眼前で左拳を振り被る。

「格闘術、紅蓮爆炎拳ぐれんばくえんけん!」

 ドゴオオオオオオッ!!!

 炎の魔力を纏った高熱の拳が炸裂すると同時に頭全体を巻き込んで爆発した。衝撃で痺れる拳の代わりに、悪魔は後方へと後退る。

「ぐはあああああっ!」

 それでもまだこの悪魔侯爵は倒れない。やはり高位の悪魔だけあって相当に打たれ強く頑強である。

「くくく、少しはやるようだが、効かぬ! この我の肉体にはな!」

 更に黒炎を体から噴き出して、悪魔が吠える。覚悟していたことだが、硬い。さすがは侯爵レベルの悪魔である。カリナの渾身の一撃もそこまでの致命的なダメージにはなっていない。

「ちょこまかと小賢しいが、疲れてその動きができなくなったときが貴様の最期よ」

「ふう……、やはり高位の悪魔とでも言うべきか……。そこまで効いていないみたいだな。ならば、此方もギアを上げさせてもらおう」

 カリナが目を閉じて集中する。再び開眼すると同時に美しかった碧眼が夕焼けの如く真紅に染まる。真眼しんがん解放。これを発動している間は使用者の能力が一時的に凄まじく向上する効果がある。カリナの身体から吹き荒れる闘気と魔力の奔流が更に激しくなった。

「な、何だあの力は? あの嬢ちゃんはまだ本気じゃなかったっていうのか……?」

「なんつー闘気に魔力の渦だ……。あんなの近づくことすらできやしねぇぞ」

 アベルにロックは、カリナが更に一段階力を解放したことを感じ取り驚愕した。セリナとエリアは、ヤコフの両親の呼吸が落ち着いて来たので、二人を階段の上に寝かせたままカリナと悪魔の戦いに目を奪われていた。

「これまでとは雰囲気が変わりましたね……」

「ええ、更に底知れない力を感じるわ……」

「頑張って、カリナお姉ちゃん」

 シルバーウイングの面々とヤコフは階段の影から更に力を解放したカリナの姿を目で追っていた。

「ぬうううっ、おのれ! 人間風情があああっ!!!」

 これまでより一段と苛烈な黒炎を噴き出しながら、悪魔が叫ぶ。その黒炎がカリナに向かって吹き荒れる。防御か回避しなければ、その高熱によりダメージを負う危険がある。

「格闘術、旋風螺旋拳せんぷうらせんけん

 両拳を握って体の前方で交差させると、カリナの両拳に竜巻の様な風が渦巻いた。襲い来る黒炎をその風で払いながら、地面を蹴って前進する。そしてイペスが薙ぎ払おうと右へ振り被った大鎌の内側へと入り込むと、その持ち手を暴風を纏った左手で受け止めた。そのまま跳躍し、悪魔の眼前へと飛び出す。カリナ自らが纏う吹き荒れる嵐に紫のミニスカートがふわりと舞った。そして残った右手の拳を悪魔の顔面へと叩き込む。腕の周りを旋回していた暴風が一陣の風となった。拳のインパクトの衝撃に加えて更に渦巻く風が強烈な二撃目となって撃ち込まれたのだ。

「ごはぁっ!」

 暴風を纏った拳を撃ち込まれた悪魔は、此度はさすがに堪え切れずに後方へと吹き飛び、湖へと突っ込んだ。激しい水飛沫が舞う。しかし、それほどの強烈な一撃をお見舞いされたにも関わらず、悪魔はすぐさま翼を羽搏かせて空中へ跳び上がり、此方へと突進してくる。

 やはり生身の打撃ではそこまでの効果は見込めないらしい。ダメージはそれなりにあるようだが、致命傷には至っていない。カリナは徐々に悪魔に叩きつける自分の拳が痺れて来るのを感じていた。悪魔の頑強な硬皮に対して生身の拳ではやはり限界があるのだと実感せざるを得ない。

 それでもかなりの収穫はあった。この小さな体では全ての攻撃が相手の視界の下から繰り出される。更に懐にも深く潜り込み易い。相手にとっては相当にやりにくく感じるはずである。そして侯爵相手にまだ一度もまともな攻撃を喰らっていない。このことはカリナにとって大きな自信になった。だが、このままでは無尽蔵の膂力を持つ相手に消耗戦である。下手をすれば自分の体力が先に底を尽く可能性もある。

「収穫はあった。そろそろ勝負を急がせてもらうぞ。魔眼解放、麻痺束縛パラライズバインド!」

 真紅に染まっていた両目の、左目のみが更に変化する。魔眼解放。過去のクエストの報酬と自分の戦闘スタイルに合わせて取得した上位のスキルである。

 白目が黒く染まり、真紅だった瞳孔が黄金の光を放つ。その視界に収められた者は自由を奪われ、麻痺の状態異常を付与されるというカリナの奥の手である。敢えて敵を遠くまで吹き飛ばしたのはこれが狙いだった。

「ぐおおおおおおっ!!? な、何だこれは……!?」

 地底湖の岸辺に辿り着こうとしたイペスは体を縛り付ける魔眼の威力に飲み込まれ、そのまま落下した。バチバチという束縛の音が響く。

「さて、話を聞かせてもらうぞ。王とは誰のことだ? お前達悪魔は何が目的で動いている?」

「う、うぐおおおおおおおっ!!! 調子に乗るなあああっ!!!」

 麻痺束縛の魔眼を受けてもなお、その場でレジストしようと全身に力を入れる。さすがは上位悪魔といったところであろう。その束縛が指から手、腕へと徐々に解除されていく。

「腐っても上位悪魔ということか……。このまま魔眼での束縛で拮抗し合っても無駄なようだ」

「カカカカッ、貴様が如何に小賢しい手を使おうが、我が肉体には致命傷にはならん。この束縛が切り札なら、この効果が途切れたときが貴様の最期よ!」

「ならば仕方ない、更に奥の手を使わせてもらう。致命傷は覚悟するんだな」

 これまでの素手での格闘でもある程度削ることはできたが、やはり致命的な一撃を与えるには至っていない。それでもカリナにはその頑強な硬皮を破壊する手段が残っている。

「開け、黄道十二宮の扉よ! 獅子宮から顕現せよ、黄金の獅子よ!」

 カリナが頭上に手を翳すと、魔法陣が展開され、ダンジョンの暗い空間に黄金の光が降り注ぐ。そしてカリナの目の前には黄金の鎧を身に纏ったライオンの姿があった。

「召喚に応じ参上致しました。我が主よ」

「ああ、久し振りだな、カイザー」

 獅子レオのカイザー。召喚術の最上位とも言われる黄道十二宮の扉を開くことで召喚できる、黄金の獅子である。

「そうですな、100年の年月は短いものではありませんでした」

 物陰から見守っていたシルバーウイングの面々は更に高位の存在を召喚したカリナに目を奪われていた。その前には魔眼を発動させ、悪魔の動きを一時的に封じるなどという荒業をカリナは披露したのである。最早単純な驚きだけではなかった。一体次は何を見せてくれるのだろうかと、彼らの反応は最初の不安から、今や期待へと変化していたのである。

「何あれ……? 黄道十二宮の扉?」

「あの嬢ちゃんの力はどこまで凄まじいんだ?」

「とんでもない魔力を感じます。先程のワルキューレのときもそうでしたけど……。カリナちゃんの召喚士としての力は底が見えない」

「黄金の獅子かよ……、すげえ力を感じるぜ!」

 エリアが、アベルにセリナにロックが次々に感嘆の声を上げる。祈るように見ていたヤコフもカリナが見せる戦いに心が昂るのを感じていた。

「何だ、この異常な力は……? 小娘、貴様はどれほどの力を秘めているのだ?!」

 カリナはニヤリと笑うと黄金の獅子に命じる。

「私の身体を纏え、カイザー!」

「承知したぞ、我が主よ!」

 カイザーが輝くと同時に黄金の鎧へと姿を変える。それが光の渦となってカリナの身体を覆っていく。そしてその光が霧散したとき、そこには黄金の獅子の形を模した鎧を身に纏っているカリナがいた。

 全身を覆う黄金の輝きを放つ鎧。ショルダーアーマーにブレストプレート。スカートの様に展開されたウエスト全体を守るパーツに、両腕を覆うガントレット。膝上までをガードするレッグガード。そして獅子のたてがみを模したかのようなサークレット。その場にいる誰もが息をするのも忘れてその姿に魅入っていた。

「な、何だ……? その姿は一体? 召喚体を身に纏うだと? そんな存在がいるというのか?」

「知らなかったのか? これが召喚獣と真に心を通い合わせた者が身に纏うことができる鎧、聖衣ドレスというものだ」

 イペスの質問に答えたカリナは左拳を握り、召喚獣の精霊力を集中させる。

「死ぬなよ。情報が聞き出せなくなるからな。さあ、受けろ、黄金の獅子の牙を!」

「ぐおおおおおおっ! こ、これはー?!」

 繰り出された拳から幾重にも交差する光の筋が放たれる。その一つ一つを確実に捉えて回避することなど不可能に思える程の超高速の拳がイペスを飲み込む。

「プラズマ・サンダーボルト!!!」

 放たれた光の筋一本一本がそれに触れたイペスの身体をズタズタに引き裂いて行く。大鎌は弾き飛ばされ、身に纏っていた赤黒い頑強な鎧は粉々に破壊された。光に触れた肉体の部分には裂傷ができて、黒い血液が噴き出していく。カリナから放たれた光が消えた時、目の前には大の字になって倒れた悪魔の姿があった。

「がはっ、何だ今のは……? ただ何かが光っただけにしか見えぬとは……!」

 背中から力なく倒れたイペス・ヘッジナには最早動くことはできなかった。それでも聖衣ドレスを解除せず、警戒は解かずに、カリナはその巨体の顔の隣へと近づいた。

「勝負あったな。最早動けまい」

「お、おのれ……、人間如きに我が負けるなど……」

 自分の敗北が信じられないのであろう。それでも最早自力で動かすことのできない身体が、自身の負けを物語っていた。悪魔侯爵であり、圧倒的な膂力と魔力を持っている自分がたかが人間の少女に敗北したのである。倒れた自分を見下ろす少女が巨大な存在に見えていた。

「ク、クカカカカッ! まさか、この我がこんな人間の小娘に敗北するとはな……。いいだろう、その勇気に免じて質問に答えてやろうではないか」

 黒い血液を身体から噴き出しながら、悪魔が敗北を認めた。これで漸く質問の答えが得られると思い、カリナは悪魔に問いかける。

「悪魔侯爵イペス・ヘッジナよ、貴様の主、王とは誰のことだ? 貴様ら悪魔は何の目的で動いている?」

「我らは各地で力ある人間共からその力を奪い、あのお方の復活に向けて動いている……。今も我の仲間の悪魔が近くの街を襲撃する手筈になっているはずだ。そして、我が主とは……」

 イペスが主のことを言おうとした瞬間、その体が炎に包まれる。カリナはこの悪魔が最後の力で自害したのかと思ったが、イペスはその炎の中で苦しんでいる。どうやら勝手な情報が漏れない様に何かが仕掛けてあったのだろう。

「ぐおおおおおおっ!? 何故だ、勝手に我が身体が燃えていく! クカカカカッ、そうか、口封じということか!」

「何だ? 何が起こった? 貴様の主とは誰だ!」

「■■■■■……! クカカカカッ、喋ることもできぬとは。召喚士カリナよ、気を付けるがいい。我が主は部下である我のことすら信用してはいないらしい。さらばだ、貴様が我らの王に挑む資格があるのか、地獄で見物させてもらおう」

 そう言うと、笑い声と共に悪魔侯爵であるイペス・ヘッジナは炎に包まれて消えた。残されたのは悪魔の身体の核になっている紫に輝く巨大な魔力結晶と、鋭い二本の角に数本の爪だけだった。

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